私が行動ファイナンスの存在を知ったのは、今から10年以上前になります。
銘柄選びのテクニックとはちがい、地味なジャンルかもしれませんが投資を始めるにあたってとても重要な人の心理を研究している学問です。
行動ファイナンスも多岐にわたって研究されていますが、投資の価格変動リスクにしぼって必要最低限のまとめをしていきます。
行動ファイナンスとは
投資家は正しい知識を持っており、マーケットは常に合理的な動きをする。このような前提を元に金融市場や経済の動きを説明してきた学問を、古典的な経済学といいます。
しかし現実のマーケットでは、アノマリーや非合理的な投資家の行動によって古典的な経済学では説明が困難です。
行動ファイナンスとは、マーケットに参加している人間の心理状態も取り入れながら、金融市場や経済の動きを説明しようとしている比較的新しい学問です。
プロスペクト理論
行動ファイナンスの中心的な理論に、2002年にカーネマン博士がノーベル経済学賞を受賞した「プロスペクト理論」があります。
①確実に2500円を貰ってゲーム終了
②25%の確率で1万円が貰えるが、75%の確率で何も貰えないゲームに参加
③確実に2500円を払ってゲーム終了
④25%の確率で1万円が払うが、75%の確率で一円も払わなくてよいゲームに参加
期待値=(値×確率)+(値×確率)で計算すると①と②、③と④ともに期待値は同じです。
同じならば確実なほうを選ぶべきですので、①と③が合理的ということになります。
しかし、この質問に多くの人は合理的でない答えをだしました。人間は期待値ではなく、利益や損失で行動を決めているからです。
金額を10倍にして選択、1/10にして選択、もう一度選んでみてください
この質問から人は、貨幣の限界効用は一定ではなく、儲けられる時は確実に利益が得られるほうを選び、損をしそうな時はリスクを取ってでも損をしない可能性があるほうを選ぶ、という行動を取るという事がわかります。
とくに④を選ぶ傾向が強くなるのが、典型的な損失回避型の人間です。
苦痛から逃れるバイアス(自己正当化)
損失回避についてすこし掘り下げます。
人は損失を出すのが苦手です。5000円の儲けと5000円の損失は、同じ金額でも心に残るイメージはまったく違うものになります。
利益 → 快楽小
損失 → 苦痛大
そしてその苦痛から逃れる(損切りをしない)ため、自分に都合のよい情報を集め始めます。
わかりやすいのは、株式掲示板です。ある銘柄を持っている人がその銘柄にとって良いニュースを探してきて書き込みます。そして掲示板を読んでいる人も良いニュースを求めて訪問しています。バイアスがかかったまま掲示板は異様な盛り上がりになっていきます。
こうして自己正当化することで苦痛から逃れようとし、購入価格に戻るまで耐えようとして、塩漬け株が出来上がっていきます。
投資方針を持たずに株を所有したときに、この傾向が強くなりがちです。誰にでもあることですが、都合の良いバイアスを極力排除して銘柄を所有もしくは損切りするべきです。
少額個人投資家が損失を抱えないために
株価の動きは上昇と下落のふたつしかありません。勝率は5割のはずなのに、なぜ8割の人が損をするといわれるのでしょうか?
人は利益と損失に対してまったく違う行動を取るということは、プロスペクト理論で説明されています。
利益は早めに確定させ、損失は耐えれるギリギリまでねばってから損切りをおこなうとどうなるでしょうか?
人は小さい利益を積み重ね、大きい損失で一気に利益を吹き飛ばしてしまう
人が陥りやすい典型的な損失回避の行動になります。
このパターンで注意しないといけないのが、だんだんと損失に対する耐性が低くなっていくという点です。
次の投資ではより早く利益を確定させ、より損失を恐れ損失回避の傾向が強くなります。
損失の許容度がゼロになったとき、市場から退場する事になります。
投資は価格変動リスクと常に隣り合わせです。損失はつきものですので、投資行動が間違っていると感じたら言い訳を考える前に損切りを考えましょう。
行動ファイナンスを知ることで、人間が陥りやすい投資のワナを回避しよう